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神戸地方裁判所 昭和30年(レ)160号 判決 1956年10月09日

控訴人 高田ひろ 外二名

被控訴人 津高たね

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人等代理人において、「被控訴人主張の抵当権の被担保債権は現在尚存在しているので、右抵当権の設定登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は失当である。」と陳述した外原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人等先代高田宝戒が昭和九年四月十四日被控訴人に対し西宮市高木高松七十四番土地の内八十六坪を賃料一ケ月金十二円四銭と定めて賃貸し、右将来の賃料債権を担保するため被控訴人所有の別紙<省略>目録記載の建物について抵当権設定契約をなし、昭和九年八月三十一日神戸地方法務局受付第五八七八号をもつて債権額金七百二十二円四十銭無利息弁済方法昭和九年八月二十八日を始めとして爾後毎月二十八日一回金十二円四銭宛都合六十回に分割支払う旨の抵当権設定登記を経由したことは、控訴人等において明かに争わぬからこれを自白したものとみなす。ところで、賃貸借契約を結ぶに当り将来発生し増減変動すべき賃料債権を将来の一定時期において一定限度まで担保すべき根抵当権を設定し得ることは勿論であるけれども、将来の一定期間に発生すべき賃料債権の合算額を被担保債権として通常の抵当権を設定することは許されず、かような抵当権設定登記をしても無効と解するの他ない。蓋し将来の賃料債権の如き未発生且金額不特定の債権を被担保債権として通常の抵当権を設定するのは、債権に附従すべき抵当権の本質に反し、ひいては第三者を害するおそれなしとしないからである。してみると、前記六十ケ月分の賃料債権を恰も現存特定の債権であるが如くにしてなした本件抵当権設定契約並びにその登記は爾余の点に関する判断を待つまでもなく何れも無効であると言わねばならず、右高田宝戒が昭和二十八年五月二十一日死亡し、控訴人等がその共同相続人として一切の権利義務を承継したことは控訴人等において明かに争わぬところであるから、控訴人等に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は理由があるのでこれを認容すべく、これと同旨の原判決は正当であつて本件控訴はその理由がないのでこれを棄却すべく、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条により主文の通り判決する。

(裁判官 河野春吉 石松竹雄 戸根住夫)

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